空想俳人日記映画鑑賞限定版

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フローズン・タイム

(2008/06/08 Sun)
釘付けに された時間の 永遠かな


 この映画、予告編で観て知った。で、絶対に観るぞ、そう思った。何故なら、この映画を作った人、絶対に自分に極めて近い人間、そう思った。できれば、愛する人といっしょに観たい。映画はほとんどが一人で観るケースが多い。でも、できれば、この映画の創り手の気持ちを、自分の気持ちとダブらせて伝えたい・・・。
 ファッション・フォトグラファーとして活躍するショーン・エリスが2004年に手掛けてその年のアカデミー賞にもノミネートされた短編作品を長編化した異色のロマンティック・ストーリー、それが「フローズン・タイム」。わかりやすい邦題。原題は「Cash Back」、さすがイギリス映画ならではのタイトル。この原題も好きだ。今回、原題と邦題が、こんなに違うのに、どちらも好きだ。これは極めて珍しい。それだけでも、これは、いい映画。
 失恋の痛手から不眠症に陥った画家志望の青年、ベン(ショーン・ビガースタッフ)。結果的に1日の時間が8時間増えた彼は、とりあえずスーパーマーケットで夜間スタッフのバイトを始める。あほな連中ばかりがスタッフとして集まる深夜のスーパーマーケット。悪さばかりして時間をつぶす悪友コンビやブルース・リーおたく。そして、時間恐怖症のレジ係、シャロン。
 増えた時間をいかに高速でやり過ごすか、そんな主人公ベンの不眠症はついに限界に達すると、世界が完全にフリーズした世界にただひとり身を置くことに。そこで彼は、誰にも気づかれることなく、思いのままに美しい女性たちを脱がしてはデッサンをし始める。
 いやあ、いいなあ。そして、単なる悪さばかりのスタッフの一員だったはずのシャロンの横顔に目が釘付けとなるんだね。このシャロンの、主人公の目を通しての変貌ぶりが私たち観客にも手に取るように分かる。そう、釘付けの時間は、ベンだけなんだけど、実は私たち観客も共有するのだね。エミリア・フォックス演じるシャロン、ロマン・ポランスキー監督の「戦場のピアニスト」でドロタを演じてたね。

 ところで実は、この彼女にしても、元カノにしても、一時のスローモションが延々と続く鬼のような顔。これも実は心を左右するリアリズムなんだよね。それを知っているから、この作り手の、その淡々たる鬼のような醜い顔、よくぞ映画いてくれた、なんだよね。顔が鬼なんじゃない。鬼のように見える顔は主観の真実なんだね。
 さて、主人公ベンの絵の力が、たまたまスーパー仲間のいたずらが原因で認められたり、その後の展開は、単純なハッピーエンドだよね、と言うなかれ。そんなシンプルな物語が故にこの映画を謗られる方は、東欧あたりの映画に頭を捻っておればよろしい。そうじゃないのよね、この映画の真髄は。マニエリズムとも言えるベンの釘付けになった時間を、本当に私たち観客がどう共有するか、なんだね。ショーン・エリス監督がスチールカメラマン、つまりフォトグラファーだからこそ、瞬時の切り取られた時間の永遠を私たちに提示できるんだね。
 ベンの個展のシャロンをテーマにした作品を見た? どうなの? 私は彼の心情の発露の結晶をそこに見たね。そして、そこを訪れたシャロンの驚愕と感動。最高だなあ。そして、釘付けにされる時間は、ベンだけじゃなく、ともに釘付けになった時間の中で生きたい相手と共有する。
 この「フローズンタイム」は、私にとって、刹那の永遠をベンとシャロンの二人だけに流れる時間と同様、愛する人と共有したかったのだ。そして、伴侶は、それをどう思ったかは知らないが、この映画を私は、いつもの一人だけの鑑賞ではない、二人で観ることが出来た。どこまでベンとシャロンであり得たかは分からないが、この映画の鑑賞に、私はいたく満足している。
 私は、いつも時を止める術を知っている。それは,どんな状況でぺしゃんこにされても逃げずへこたれて、へこたれても敢えて自ら率先して落ち込み、そこから這い出すために、その不眠の時間の深い谷間でありえるであろうあらゆる可能性を空想することで、時間を釘付けにする術を覚えたのだ。だから、この映画が私には分かりすぎて堪らないのだ。




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スパイダーウィックの謎

(2008/06/08 Sun)
妖精の 見えた人よ 何をか得ん


 ここんとこ「ネバーランド」に「トゥー・ブラザーズ」、「チャーリーとチョコレート」や「アーサーとミニモイの不思議な国」、そして「プロヴァンスの贈りもの」と超人気者のフレディ・ハイモア。彼のファンならば、今回の映画は、二度おいしいから見逃しちゃ損だね。主人公ジャレッド役と双子の兄さん(あれ、弟?)のサイモン役。一人二役。しかも性格の違いを旨く演じてるよ。
 制作国はアメリカだし、監督のマーク・ウォーターズもオハイオ州クリーヴランド出身。でも、アメリカ臭くない映画。どちらかっていうとイギリス臭い。派手じゃないし、静かだし、こじんまりしてるし、ちょっと異様だし。絶対的な大笑いでない、ほくそ笑みのお誘いも、やっぱりイギリス癖な気がする。
 夫婦関係が悪化(これ、少しテーマ性で時々鼻につくけど、きっと大国主義・資本主義の格差の中で現代社会が来たしている病だから、今きっと必要なんだろうけどね)したことから母親に連れられてフレディ兄弟と姉とが移り住むの家、これが恐るべき舞台。父不在の四人家族で一番のアウトローがジャレッド。いたずらや困りごとは、みんなジャレッドのせい。可哀相。まあ、本人がそういう態度をしてきたから仕方ないっか。
 でも、実は、この恐るべき家、森の奥にひっそりと建つ、大叔父アーサー・スパイダーウィックやその娘である叔母のルシンダも住んでいた古い屋敷で、「決して読んではいけない」とメモが貼られた一冊の書を発見するんだね。さて、そこからジャレッドの視野がぐぐぐんと広がっていく。見えないものが見えてくる。いないはずのものがいたりする。妖精たちよ、ぼくはずっと信じてたよ。うれしいな。
 家族の中で反抗勢力だったジャレッドが家族を守る役割に変身する。みんなが彼を、嘘つきの空想壁の悪戯者の食み出し者の彼を、頼り始める。この家族のテーマ性は、先に時々鼻につくと書いたとおりだから、とっても分かりやすい。しかも、大叔父アーサー・スパイダーウィックとその娘の関係までがラスト近くで明確に演じてくれる。風の精のおかげで空想世界の方へだが、親子の関係の再生の道を用意してくれる。
 だから、単に一大アドベンチャー・ファンタジーを期待していくと、大損した気持ちになる。特に、悪の権現(ゴブリンだっけ)とジャレッドとの戦いの結末が鳥大好物の妖精によって、ありゃりゃん、いともカンタンに。。。これにはあきれる、と言う人も多かろう。でも、そうじゃないのよねえ。そんなもんなのよね。悪の本質なんて。人間が勝手に大きく膨らませて、仮想敵国とか仮想独裁者なんかを想定するけど、ひょっとして、そんな大それたところになく、自分の内の奥深いけど小さなところにあるものかもね。だから、逆に、いいね、この大団円、そう思った。これが大笑いではなく、ほくそ笑みでもあるのだね。
 そうそう、まさか、あほうどりさながら最後も空中を展開する存在に対し、奴を倒すべき続編を馬鹿にしながら期待するのはお門違いであること、釘刺しておこう。あれは敵ではない。
 とにかく、この作品、ここんとこ、たくさんのライラとかナルニアとか、そんな一大叙事詩のもぬけの殻とは一緒にされては困る作品であることは分かってあげたい。それが、どう違うか、あんなに私からすれば、鼻につくテーマ性なんだけど、それも匂わない観客は、果たして銀幕に何を観ているのか、少々不安になってくる。




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モンゴル

(2008/06/08 Sun)
異端児の 心の支え 偉業の力


 この映画、何がいいって、ジンギスカンじゃないの、チンギス・ハーンなの、その彼の不確かな幼少年時代を仮説を打ち立てて描いちゃったこと。っていうか、私なんぞは、自分が日本人だから、源義経が日本で不遇な成り行き(島流しの後に東北藤原の地経由で? まさか)後に大陸に渡ってチンギス・ハーンになった、などというちょいと荒唐無稽な伝説が好きなんよ。
 ところで、そんな源義経がチンギス・ハーン、ってな話、みなさんはご存知? ということで、別に源義経じゃなくてもいいけど、浅野忠信を使って、そんじょそこらのこれまでのモンゴル人として通用していた概念に囚われない存在として異端児的に登場させたのは、なかなかよろしいのじゃないのかな。しかも、その根底にある想いが、ひとつは引き裂かれたくない愛、もひとつは怖れない勇気、なのだね。
 もし、この概念がチンギス・ハーンのこれまでのモンゴル遊牧民族になったコンセプトであり、その概念というか信念故に、モンゴル帝国という一大巨大国家を彼が築けたとすれば、そして彼の理想とする国家であるとすれば、モンゴルという国は、引き裂かれたくない愛、怖れない勇気、これを大切にする国なのだね。
 それにしても、チンギス・ハーンの幼少年時代テムジン、つまり浅野忠信の子役に当たるが、よくもまあ、妻選びで相手から声をかけられた女性(というか少女)を見初めたものである。しかし、これが、また味噌だ。というのも、私は、テムジン以上に、妻となるボルテ(クーラン・チュラン)は凄いと思う。彼女の自分から妻にしろ、みたいなアプローチから始まり、テムジンに対する強靭な愛情。
 私は、ボルテという存在を、テムジンの心の支えと見た。何故か、そういうと日本で言うカカア殿下みたいだが、例えて言うなれば最近流行の映画「ライラの冒険」でいうと、ダイモン的存在。つまり、テムジンの魂を動かす存在、それがボルテだ。おそらく、テムジンがチンギス・ハーンになるべく人にしたのは、このボルテだ、と言ってもいい。ボルテ、はじめは、なんか、もう少し配役なんとかならなかったのかな、そう思ったけど、いやはや彼女の役を務めるクーラン・チュラン、だんだん後半になるにつれ、いい女に見えてきたではないか。浅野忠信が近年の日本の女性なんかに現を抜かすよりも彼女の方がいい、なあんて勝手に思ってしまった。
 それにしても、そうした異端児的テムジンに対し、友情の契りを交わしながら宿敵となるスン・ホンレイ演じるジャムカもいい。彼、どことなく日本の男優、誰だっけ、田村正和演じるテレビドラマ「古畑任三郎」シリーズの名脇役演じてた・・・、そうそう、西村雅彦を髣髴とさせる。だからって何、ということではないが、彼のテムジンとは逆の昔ながらのモンゴル遊牧民の精神の持ち主。この二人の対峙が実によろしい。
 この映画、殺戮や人を人と思わぬシーンも多いが、だから否定される以上に、何故かワクワクさせられる活劇大ロマンでもある。何だろう、この教習にも近いワクワクは、と過去の記憶を辿れば、そうそう、マカロニ・ウエスタンである。そうかあ、ひょっとすると、イタリア人ではないクリント・イーストウッドがイタリア西部劇で演じたように、モンゴル人ではない浅野忠信がモンゴル国建国の要のモンゴル・ウエスタンを演じた、そういうふうに言ってもいいのかもしれない。
 この作品、歴史に残る作品かどうかは分からないが、明らかに鎌倉幕府を源頼朝が作った以上の義経の、いやテムジンの一大叙事詩であると大声を立てず、心の中でひそかに確信する。それにしても、これも他国(ロシア)である監督・脚本のセルゲイ・ボドロフさん、よくやりなさった。快挙である。




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犬と私の10の約束

(2008/06/08 Sun)
戒めは 人のためならず


 かつて、「新潟県中越地震」で大きな被害に見舞われた山古志村のお話ということで、「マリと子犬の物語」を鑑賞した際の感想にも、「父親役の船越英一郎演じる石川優一と私は同じだ。何が同じって、そう、犬が好きじゃない。犬を飼うなら猫を飼う。して、かつて猫を飼った経験がある。犬はない。お犬を連れての散歩の方々が多いが、すれ違うとき、その犬の大きさに比例して距離を置いてすれ違うことにしている」というようなことを書きました。どちらかというと犬は苦手です。
 でも、この映画を観てしまいました。気になったのが、その10の約束である「犬の十戒」。

1.私と気長につきあってください。
  (Give me time to understand what you want of me.)
2.私を信じてください。それだけで私は幸せです。
  (Place your trust in me. It's crucial to my well-being.)
3.私にも心があることを忘れないでください。
  (Be aware that however you treat me I'll never forget it.)
4.言うことを聞かないときは、理由があります。
  (Before you scold me for being lazy, ask yourself if something might be bothering me.)
5.私にたくさん話しかけてください。人の言葉は話せないけど、わかっています。
  (Talk to me sometimes. Even if I don't understand your words, I do understand your voice when it's speaking to me.)
6.私をたたかないで。本気になったら私のほうが強いことを忘れないでください。
  (Remember before you hit me, I have teeth that could hurt you, but that I choose not to bite you.)
7.私が年を取っても、仲良くしてください。
  (Take care of me when I get old.)
8.あなたには学校もあるし友達もいます。でも、私にはあなたしかいません。
  (You have your work, your entertainment, and your friends. I have only you.)
9.私は10年くらいしか生きられません。だから、できるだけ私と一緒にいてください。
  (My life is likely to last 10 to 15 years. Any separation from you will be painful for me.)
10.私が死ぬとき、お願いです。そばにいてください。そして、どうか覚えていてください。私がずっとあなたを愛していたことを。
  (Go with me on difficult journeys. Everything is easier for me if you are there. Remember I love you . . .)
(原典:犬の10戒)

 特に想ったのが、8の「あなたには学校もあるし友達もいます。でも、私にはあなたしかいません。」ですね。実際に、 福田麻由子演じる子ども時代の斉藤あかりは、まあよしとして、 田中麗奈演じる斉藤あかりの頃になると、ソックス(犬の名前。足が靴下がいているような模様。母親の高島礼子演じる斉藤芙美子が名付け親)を疎ましくおもうようになっちゃいますね。
 それにしても余談ですが、福田麻由子と田中麗奈、似てますね。前から思ってたんです。ひそかに、子ども時代と大人時代で共演すればいいのに、そう思ってたんです。見事この映画で実現してくれちゃいました。やったあ。
 で、逆に、あかりの父親の豊川悦司演じるお医者さん斉藤祐市の方が、初めは仕事人間だったんですけど、家族を、ソックスを大事にするようになります。この父親の気持ちの推移、いいですね。でも、悲しいかな、そこには、高島礼子演じる妻の斉藤芙美子の病死がきっかけとしてあります。
 確かに、そんなことがきっかけであることは悲しくて淋しいんですけど、この映画、物語として、それがあるからこそ厚みのある映画になってるんですね。そう、単なるワンちゃんへの愛情のお話ではない、ということです。犬好きの方に限った作品では決してありません。
 体調を崩して入院していた母親の芙美子は、あかりに、犬を飼う時、犬と「10の約束」をしなければならないことを教えます。ソックスは初め我が家に紛れ込んできた犬という位置づけになっていますが、実は、死期を知った芙美子さんの娘へのプレゼントなんですね。しかも、それは、ただの贈り物じゃない。母親の死後、あかりが大人へと成長していく過程、自分の代わりにいつもそばにいて、あかりを励ます、使者だったんですね。
 芙美子がソックスとして接する10年間、その間に芙美子が娘あかりを育んだのは、犬に対してだけではない、人に対しても含めての思いやる愛情だったのではないでしょうか。そして、私が特に想った「あなたには学校もあるし友達もいます。でも、私にはあなたしかいません。」というのは、少々旦那である祐市には可哀相ではありますが、母親が偏に我が娘に心を注ぐ気持ち。そう思うと、もっともっと、このコトバが熱く感じられるんですね。
 あかり自身は、ソックスとの関係で育んだ母親からの愛情のおかげで、ソックス死後、自らもかけがえのない伴侶と結ばれます。お相手は、幼少の頃からソックスとの関わりも含めて仲の良い、ギタリスト志望の星進(加瀬亮)。おそらく、彼へのあかりの愛情は、きっとソックスに託した芙美子の、旦那である祐市への愛情と相似形、そう思えば、先の「祐市には可哀相」も解消されますね。
 もう一度言います。単なるワンちゃんへの愛情物語、「犬の十戒」を描いただけお話じゃ、ないんです。そして、10番目の十戒、「私が死ぬとき、お願いです。そばにいてください。そして、どうか覚えていてください。私がずっとあなたを愛していたことを。」を噛み締めます。あかりに説いた芙美子の声が私の頭の中で木霊のようにリフレインしてやみません。





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